朝ごはんは 早饭 、「朝のご飯」と言い、少しあらたまると 早餐 とも言います。けれども、いちばんよく耳にするのは 早点 、文字どおりには「朝をちょっと」です。仕事に行く途中、通りがかりに買って食べるもののことです。ただし注意が必要で、同じ 早点 は「少し早めに」という意味にもなり(早点睡、早めに寝なさい)、どちらの意味かは文脈で決まるしかありません。前のページ レストランと宴会 は食卓にとどまっていましたが、このページは通りに出ます。多くの中国人は、一日の最初の食事を立ったまま、あるいは歩きながら済ませるのです。边走边吃 、「歩きながら食べる」です。
この朝ごはんの王様は 油条 、「油の棒」です。細長い揚げパンで、豆乳 豆浆 に浸して食べます(ご飯からデザートまで を参照)。その由来は聞いておく価値があります。1142年、将軍 岳飞 は宰相 秦桧 の命で処刑されました。杭州の人々は、秦桧とその妻をかたどった小麦粉の人形を二つ油で揚げて恨みを晴らした、と言われます。これが 油炸桧、「油で揚げた秦桧」です。話ができすぎていて、私には請け合えません。ただ、広東語では今でもこの揚げパンを 油炸鬼、「油で揚げた悪霊」と呼びます。この 鬼 は、どう見ても 桧 に取って代わったもののようです。
町ごとに朝ごはんがあります。天津の人は 煎饼果子 に目がありません。卵とパリパリの揚げ生地をはさんだクレープです(天津の言葉では、この 果子 はお菓子ではなく、まさにその揚げ生地のことです)。武漢では「朝ごはんを食べる」とは言わず、过早 、「朝を過ごす」と言い、热干面 、ごまだれをからめた汁なし麺を一杯食べて朝を過ごします。どこでも、おぼろ豆腐 豆腐脑 は北では塩味、南では甘くして食べます。これが 甜咸之争 、「甘いかしょっぱいか論争」で、毎年ネットを沸かせます。私はどちらの肩も持ちません(塩味派)。
食事と食事のあいだには 小吃 、文字どおりには「小さく食べる」⟶ 軽食をつまみます。地方ごとに名物がありますが、西安 はそれを一つの文化にまで育て、イスラム教徒の住む地区には軽食の通りがあります。そこで食べるのが 肉夹馍 で、その名は文法家を面白がらせます。「肉がパンをはさむ」と言っているのに、実際にはパンが肉をはさんでいるからです。よく言われる説明では、古典的な言い回し 肉夹于馍、「パンにはさまれた肉」を縮めたものだとされます。もっともらしいとは思いますが、それだけです。
夜になると、通りは顔を変えます。夜市 、夜の市場では 夜宵 、夜食を出します。ウイグル風の羊肉の串焼き 羊肉串、焼きソーセージ、揚げ串。串焼きを食べに行くことを、くだけて 撸串 と言います。撸 は、肉を串に沿ってすべらせて抜き取る手の動きです。南では 大排档 の席につきます。この言葉は香港から来ました。1950年代、こうした屋外の食堂は大きな営業許可証、大牌 を受けていたのです。やがて 排、「列」と書くようになりましたが、歩道沿いに並んだテーブルにはこちらもぴったりでした。
北京 には通りの甘いものがあります。冰糖葫芦 は、サンザシの実を串に刺して砂糖で固めたものです。宋の時代、食欲をなくした皇帝の妃に医者がこれを処方し、妃は回復した、と伝えられます。驴打滚 、「転げ回るロバ」は、もち米の生地を巻いてきな粉をまぶしたお菓子です。その粉が、地面を転げ回るロバの巻き上げる土ぼこりを思わせるのだとか。今回ばかりは、この絵だけで十分です。
市場は 市场 と言い、「市場経済」の市場と同じ言葉です(日本語の「いちば」と「しじょう」が、中国語では一つなのです)。孟子はこれを簡単に定義しています。古之为市也,以其所有易其所无者、「昔、市を開く者は、自分の持っているものを持っていないものと取り替えた」(これが例文24です)。孟子は続きも語っています。ある卑しい男が小高い丘 龙断 に登り、市場全体を見渡して、うまい取引を独り占めした。そこで商人に税をかけるようになった、というのです。この丘は言葉の中に残りました。今日、独占は 垄断 と言います(日本語の「壟断」も同じ話から来ています)。
市場では目方で買います。そして中国の目方には歴史があります。斤 は今は500グラムで、十の 两 に分かれます。けれども1959年の改革までは一斤が十六両で、台湾では今もそう数えます。そこから 半斤八两 、「半斤か八両か」という言い回しが生まれました。どちらも同じ、五十歩百歩です。昔の竿ばかり 杆秤 には十六の目盛りがあり、それは北斗の七つの星(おおぐま座の北斗七星です)、南斗の六つの星、そして福・禄・寿の三柱の神を表していたと言われます。目方をごまかす商人 缺斤短两 は、そのたびに運を少し失ったわけです。きれいな説明です。そして確かめようがありません。
市場で覚えておくべき一言は 多少钱一斤 、「一斤いくら?」です。売り手が量って(称一下 )、たいていはお客に有利なように端数をまけてくれます。抹零 、文字どおりには「端数を消す」です。ねぎを一本、ただで袋にすべり込ませてくれることさえあります(これが例文23です)。いちばんいい時間は 早市 、朝市です。田舎では、市の立つ日に「市へ急ぐ」、つまり 赶集 のです。市はたいてい三日か五日おきに立ちます。
スーパーマーケット 超市 は 超级市场、「超級の市場」を縮めたもので、英語の supermarket をなぞった言葉です。レジでは 你要塑料袋吗 と聞かれます(これが例文7です)。2008年からレジ袋が無料ではなくなったからです。そこでエコバッグ、环保袋 の出番です。そして 保质期 、「品質が保証される期間」⟶ 賞味期限を確かめます。
けれども本当の革命は出前です。外卖 、「外に売る」は、もとは料理店が持ち帰り用に売る料理のことでしたが、今では経済の一角を占めています。スマートフォンで 点外卖 、出前を頼むのです。頼む先は 美团 (共同購入 团购 から生まれました)か、名前がただ「おなかすいた?」と尋ねている 饿了么 です。何百万人もの配達員、外卖小哥 、「出前のお兄さん」たちがスクーターで町を走り回り、何よりも 差评 、低評価を恐れています。
市場は、いたるところに言葉を残しました。卖萌 、「かわいさを売る」は、気に入られようと子どもっぽくふるまうこと。出卖 、人を「売る」は、裏切ることです。卖关子 は、いちばんいいところで話を止めて、翌日また客を呼び戻した街頭の講釈師から来ているそうです。土包子 、「土の蒸しパン」は田舎者、香饽饽 、「いい香りのお焼き」は、誰もが奪い合うもののことです。
孔子のほうは、巷に流れるものを警戒していました。『論語』(孔子の論語:第17章 を参照)には 道听而途说,德之弃也 とあり、クヴルールはこれを「道で学んだよいことを、道すがら行き交う人みなに繰り返すのは、徳を風に投げ捨てることだ」と訳しています(これが例文25です)。現代中国語はここから 道听途说 、うわさを言いふらす、という言葉を残しました(日本語の「道聴途説」と同じです)。通りの食べ物はおいしい。通りの話はあてにならない。
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使い方:どの語にもレベルがついています。① は基本、② はよく使うもの、③ は細かいもの。まず ① から始めてください。それだけでも、通りや市場、ネットで食べ物を買うには足ります。▶ のボタンで発音が聞け、漢字をクリックすると筆順が開きます。
朝ごはん
朝ごはん(「朝のご飯」)
朝食(あらたまった言い方)
外で買う朝ごはん;(また)少し早めに
朝ごはんの店
揚げパン(細長い棒状の揚げ生地)
具入りクレープ(天津名物)
卵入りの薄焼き
具入りのおにぎり
層になった薄焼き(「手でつかむ」)
熱い汁なし麺(武漢名物)
焼き餃子(「鍋に貼りつける」)
おぼろ豆腐(「豆の花」)
歩きながら食べる
通りの軽食(塩味)
軽食、屋台の食べ物
串焼き
羊肉の串焼き
焼きソーセージ
「肉をはさんだパン」(西安名物)
小麦粉で作る冷たい平麺(「冷たい皮」)
揚げ串
酸っぱ辛い春雨
屋台街、食べ歩きの通り
おでん(日本から伝わったもの。コンビニの定番)
タニシのスープの米麺(柳州名物)
「焼いた冷麺」(東北地方の、麺の生地を鉄板で焼く軽食)
ロバ肉をはさんだ焼きパン(河北名物)
通りの甘いもの
サンザシの飴がけ串
焼き芋
ポップコーン
綿あめ(「綿の砂糖」)
スイーツの店
甘栗(砂糖と炒った栗、天津甘栗)
飴細工
冷たいゼリー(四川のデザート)
「炒めたヨーグルト」(ロールアイス)
「転げ回るロバ」(北京のもち米菓子)
エッグワッフル(香港)
夜、屋台、物売り
夜市、ナイトマーケット
夜食
道端の屋台
小さな露店
露店を出す
行商人、物売り
SNSで人気の店
屋外の大衆食堂
焼き物の屋台
地べたに品物を並べた露店
(くだけて)「串をしごく」:串焼きを食べる
売り声を上げる
市場で
食料品の市場(野菜市場)
市場(いちば);(また)市場経済の市場(しじょう)
一斤(500グラム)
半斤(一斤の半分)
「一斤いくら?」
一両(50グラム)
目方を量る
選ぶ、えり分ける(果物や野菜を)
朝市
「市へ急ぐ」:田舎の市に行く
露店の主
農産物市場
竿ばかり
端数をまける(客に有利に)
スーパーで
スーパー
ショッピングカート
ビニール袋、レジ袋
レジ
レジ係
商品棚
賞味期限
特売価格
エコバッグ
セルフレジ
製造年月日
計量(果物や野菜の)
出前
出前、デリバリーの料理
出前を頼む
出前の配達員
高評価、よいレビュー
低評価、悪いレビュー
料理を届ける
注文する
バイクの配達員(「乗り手」。競馬の騎手ではない)
メイトゥアン(Meituan、出前アプリ)
商品の配送、輸送
届いた、配達完了
ウーラマ(Ele.me、「おなかすいた?」、出前アプリ)
一定額以上で割引
注文の備考
新鮮か、そうでないか
冷凍する
食品の安全
カビが生える
前の晩の残りのおかず
急速冷凍の
冷蔵する
食品用ラップ
(食べ物が)傷む
すえた、酸っぱくなった(料理が)
防腐剤、保存料
言い回しの中の通りと市場
「人は鉄、飯は鋼」:食事を抜いてはいけない
「人の山、人の海」:黒山の人だかり
「半斤か八両か」:五十歩百歩
一斤ごとに勘定する:けちけちする
目方をごまかす
おなかがぐうぐう鳴る
「通りの端、路地の奥」:町じゅう
通りや路地を歩き回る(行商人のように)
人でごった返す
「大根が早く売れると泥を洗わない」:売れると手を抜く
遅れるより早めに行くほうがいい
「品物は皮一枚で売れる」:見た目が勝負
「道で聞き、道で話す」:うわさを言いふらす(道聴途説)
日常語の中の通りと市場
「かわいさを売る」:かわいこぶる
「力を売る」:精を出す
人を「売る」:裏切る
引っ張りだこの
認める、受け入れる(多く否定で)
気をもたせる
(面倒なことに)出くわす
手の内を明かす
「土の蒸しパン」:田舎者
「いい香りのお焼き」:誰もが奪い合うもの
気に入る、満足する
職務にふさわしい
甘いかしょっぱいか論争
例文
朝ごはん、食べた?
毎朝、揚げパンを一本食べて、豆乳を一杯飲みます。
このスイカ、一斤いくら?
今晩、夜市をぶらつきに行こうよ!
スーパーには何でもある。
今日は疲れすぎた。出前を頼もう。
レジ袋はいりますか?
羊肉の串焼きを二本、あまり辛くしないで。
彼は朝ごはんを食べる時間がなくて、歩きながら食べるしかない。
ご主人、このリンゴを量ってもらえますか?
食料品を買うなら、早めに朝市に行くこと。そこなら野菜がいちばん新鮮だ。
牛乳が賞味期限を過ぎていて、もう飲めない。
配達員は二十分で届けてくれた。
備考欄に「パクチー抜き」と書いておいた。
具入りクレープは、天津の人がいちばん好きな朝ごはんだ。
夏の夜は、みんな道端の屋台で焼き物を食べ、ビールを飲むのが好きだ。
このSNSで人気の店には、毎日長い行列ができる。
おぼろ豆腐、甘いのとしょっぱいの、どっちにする?
朝はしっかり、昼は腹いっぱい、夜は少なめに食べなさい。
人は鉄、飯は鋼。一食抜けば、もう何もできない。
あなたたち二人は五十歩百歩、お互いを笑える立場じゃない。
大根が早く売れると泥を洗わない。商売がうまくいくと、品物への気配りがおろそかになる。
野菜売りのおばさんが端数をまけてくれて、ねぎを二本おまけしてくれた。
昔、市を開く者は、自分の持っているものを持っていないものと取り替えた。
道で学んだよいことを、道すがら行き交う人みなに繰り返すのは、徳を風に投げ捨てることだ。


